当院の親知らず抜歯の特徴
親知らずとは、お顔の中心の歯から数えて8番目の歯のことで、正式には智歯や第3大臼歯と言います。智歯(親知らず)は、他の歯や歯周組織に悪影響を及ぼす生え方をして抜歯適応になることが多い歯です。そして、智歯の抜歯には、「痛くて腫れるのではないか」といったご不安をお持ちの方が多いようです。
しかしながら実際は、まっすぐ生えている智歯の抜歯でお痛みや腫れがでることは稀ですし、あごの骨や歯肉の中に斜めまたは横になって埋まっている智歯であってもお痛みや腫れがでないように抜歯することは不可能ではありません。
当院では、術中の患者様の安全を確保したうえで、術中はもちろん術後の患者様の生活にも支障をきたすことのないよう、お痛みや腫れを生じさせない抜歯を行なっております。本項では、その術式をご紹介いたします。
親知らずでお困りの方は、ご遠慮なくご相談ください。
添田博充 医学博士
下のあごの骨の中に横になって埋まっている親知らずを痛みや腫れを生じずに抜歯する方法
1 視診
第二大臼歯遠心歯面と歯肉との付着状態、残存歯の状態、開口量など、お口の中全体を拝見し、抜歯適応か否かを判断します。左の写真では、智歯(親知らず)は歯肉の中に埋まっていて見えません(矢印)。
2 X線オルソパントモグラフィ診査
X線オルソパントモグラフィで、智歯(親知らず)の概要を診査します。左の写真では、智歯は骨の中に横たわって埋まっており、歯根の尖端が下顎管に接触しています(矢印)。
3 X線CT診査
X線CT検査にて、智歯(親知らず)の形、位置、周囲組織(神経、血管)との接触関係など三次元的情報を診査します。
4 術前説明
診査結果から、抜歯の妥当性、抜歯以外の選択肢、術式、手術のリスクなどをご説明し、ご質問にお答えします。
5 生体モニタリング
全身管理術中の急変などに備え、心拍数、血圧、血中酸素飽和度などの生体情報をモニタリングします。
6 麻酔
智歯の歯根膜に現局した局所麻酔を行います。多くの智歯は下顎管という神経と血管が通る管状の構造と接触しており、抜歯の際にこの下顎管を損傷すると術後に唇の麻痺が発生します。智歯の歯根膜に現局した麻酔では唇の感覚が残った状態で抜歯を行うことができるため、術中に下顎管を刺激したときに唇に症状が現れて気付くことができ、下顎管損傷という重大な偶発症を予防することができます。
7 歯肉切開剥離
智歯の上に被っている歯肉を骨と結合している歯肉(付着歯肉)の範囲内で概ね5mm程度の切開剥離(切り開くこと)をします。切開剥離が付着歯肉の範囲を超えると術後に腫れ生じます。当院では、術部を4℃保つことで侵襲した組織からの起炎性物質の放出を減じ、当該処置を4分以内に完結させることで侵襲後の組織の回復を早める工夫をしています。
8 智歯の分割摘出(抜歯)
あごの骨の中に横たわって埋まっている智歯は、まっすぐ上に向かって生えている智歯と同じように引き抜くことはでないので、分割して抜歯します(図1)。智歯を覆う骨に付着歯肉の範囲内で概ね5mm四方の穴を開け、智歯をこの穴より小さく分割しながら摘出します。この穴の大きさが付着歯肉の範囲を超えると腫れを生じます。前段同様、術部を4℃に保ち4分以内に処置を完結することで術部の侵襲を最小限にします。
9 縫合
切開面同士が切開剥離前と同じ状態で接合するように縫合します。患部を早く綺麗に治癒させるためです。
10 止血
縫合後10分程度ガーゼを噛んでいただき止血します。多くの場合、麻酔液に含まれる血管収縮剤の効果で術中術後出血はありません。
11 術後説明
抜歯術の結果、予後、抜歯後の留意点をご説明し、ご質問にお答えします。抜歯後の留意点は次の通りです。
<抜歯後の留意点>
1 抜歯した後の穴(抜歯窩)について
抜歯窩は傷とお考えください。体の他の部位にできた傷と同じように、はじめにかさぶた(血餅)ができ、その深部で組織の再生が起こります。血餅が剥がれ骨面が露出すると再び出血し、炎症を起こしたり感染したりすることがありますので、血餅が剥がれないように次の事項にご留意ください。
1)舌でいじらないこと
2)強くうがいをしないこと
3)強くつばを吐いたり強くものをすったりしないこと
4)食べ物が入ってしまっても無理にとろうとしないこと
2 麻酔後の注意について
1)麻酔の効果が切れ感覚が回復するまで、約3時間を要します。
2)麻酔の効果が持続している間は、気付かないうちに、舌、唇、頬粘膜を噛んでしまうことがありますので、ご注意ください。
3)麻酔の効果が持続している間に飲食をされますと、気付かないうちに、口腔内を傷付けてしまうこと(火傷や咬傷)がありますので、ご注意ください。(飲食は感覚回復後にされますことをお薦めします。)
4)麻酔が効いている部分を手指や舌でいじると、感覚回復後に痛みや腫れを招くことがありますので、お触りにならないでください。(お子様はいじってしまうことが多いので、保護者様には良く観察していただきます。)
5)麻酔の効果が持続している間に歯磨きをされますと、気付かないうちに、口腔内を傷付けてしまうことがありますので、ご注意ください。(歯磨きは感覚回復後にされますことをお薦めします。)
3 抗菌薬の服用について
術後は抗菌薬を服用していただきます。これは、術後に一時的に全身に回る口腔内細菌が全身の血管の細部で停滞し増殖しないようにするためのものです。口腔内の状態にかかわらず指示通りにご服用ください。
4 鎮痛剤の服用について(痛みの抑制について)
抜歯後は、抜歯周囲組織に物理的な力を受けたことによる一時的な炎症(反応性炎症)が3時間程度続き、これに伴うお痛みが現れることがあります。鎮痛剤を抜歯直後にご服用いただければ、麻酔が奏功している間に鎮痛剤が奏功し、このお痛みを感じることなくお過ごしいただけます。
5 腫れについて
手術の侵襲が骨と結合している歯肉(付着歯肉)の範囲内であれば腫れません。しかしながら必要があって付着歯肉を超えて切開剥離した場合は腫れます。その腫れは、術後3日目がピークで、その後、相当部顔面に痣ができ、黄変し、1週程度で消失します。これらの反応は異常ではありません。予後は執刀医が承知しておりますのでお尋ねください。
6 ブラッシング(歯磨き)について
術後1週間程度までは術部に歯ブラシが当たらないようご注意いただき、クロルヘキシジンを含むうがい液でこまめにうがいをなさってください。
親知らず抜歯の費用
健康保険が適用されます。健康保険3割負担の方の負担額の概算は次の通りです。
簡単な智歯の抜歯 | 1,000円 |
困難な智歯の抜歯 | 1,500円 |
骨に埋まっている智歯の抜歯 | 4,500円 |
X線CT撮影診断 | 3,600円 |
よくいただくご質問
Q1 そもそも、親知らず(智歯)は抜く必要があるのでしょうか?
A1 智歯(親知らず)は、お痛みがなくても他の歯や歯周組織に悪影響を及ぼしていることが多いため抜歯適応になることが多いと言えます。その生え方、智歯以外の歯の残存状態、ライフイベント(出産、結婚、受験など)などを考慮しながら判断します。
もちろん、他の歯や歯周組織に悪影響を及ぼしていなければ抜く必要はありません。例えば、上下の智歯同志あるいは智歯と他の歯が正しく噛み合っている場合、智歯があごの骨または歯肉の中にあって智歯の前の歯(第二大臼歯)と周囲歯肉との付着が維持されている場合、智歯を将来的に移植歯として利用する可能性がある場合などがそれに当たります。
Q2 親知らず(智歯)の抜歯は痛いですか?
A2 通常、痛くありません。多くの抜歯症例では、術中の痛みは麻酔薬、術後の痛みは鎮痛剤で予防することができます。炎症時に止むを得ず行う症例や必要があって処置に時間を要したり組織を大きく侵襲したりした症例では術後に痛むことがありますが、日常生活に支障をきたすほどの痛みではありません。
Q3 親知らず(智歯)の抜歯をするとかなり腫れるとよく聞きますがそれは本当でしょうか?
A3 手術の侵襲が骨と結合している歯肉(付着歯肉)の範囲内であれば腫れません。しかしながら必要があって付着歯肉を超えて切開剥離した場合は腫れます。その腫れは、術後3日目がピークで、その後、相当部顔面に痣ができ、黄変し、1週程度で消失します。これらの反応は異常ではありません。
Q4 親知らず(智歯)の抜歯には小顔効果があると聞きますが本当ですか?
A4 智歯(親知らず)の抜歯の直接的な影響で下のあごの骨格が小さくなることはありません。智歯の抜歯により噛み合わせなどが変わりそれによって咬筋が小さくなるなどの間接的な変化が現れることはあるかもしれません。
Q5 親知らず(智歯)を抜歯しないとその前の歯が押されて歯並びが悪くなると聞きますが本当ですか?
A5 1本の智歯(親知らず)がその前の歯すべてを押して動かし歯並びを悪くするということはありませんが、智歯に押された第二大臼歯(智歯の1本前の歯)が動くことによって噛み合わせが変わり、その後、他の歯が動くということはあるかもしれません。
Q6 親知らず(智歯)の抜歯は何歳くらいにすると良いですか?
A6 他の歯や歯周組織に悪影響を及ぼしている智歯(親知らず)は早期抜歯が望ましく、20代までに抜歯されるのがよろしいかと存じます。加齢とともに歯槽骨、歯根膜、歯の弾性が乏しくなり抜歯が困難になると、処置による侵襲が大きくなり、術中術後の腫れや痛みが発症するリスクが高まるためです。また、女性の場合は、ご出産やご結婚などのライフイベントを考慮し、それら前に抜歯されることをお薦めいたします。
Q7 親知らず(智歯)の抜歯にはどのようなリスクがありますか?
A7 抜歯には次のリスク(偶発症)が考えられます。
1 局所麻酔により、気分が悪くなることやショックを起こすことがありますが、当院では、術中の患者様の急変に対応するべく、救命救急医療チームを構成し定期的なシミレーショントレーニングを行なっております。
2 術中、周囲組織(神経、血管、軟組織)の損傷、他歯の破折や修復物・補綴物の脱離、上顎洞への穿孔や歯牙の迷入を偶発することがありますが、これまで当院で当該偶発症の発生はなく、万が一発生した場合は、適切に対処いたします。
3 抜歯後は、出血、腫脹、発赤、発熱、疼痛、開口障害、嚥下痛、顔面内出血等が出現することがあり、多くは1週間程度で軽快します。その他、二次感染、ドライソケット、上顎洞炎、骨髄炎、他歯の知覚過敏が偶発することがあります。これまで当院で当該偶発症の発生はありまえんが、万が一発生した場合は、適切に対処いたします。
4 抜歯後に知覚障害が起こることがあります。発生頻度は、下口唇で0.6-4.4 %、舌で0.1 %で、多くの場合は6か月から1年で回復し、0.1 %程度は回復しないと報告されています。これまで当院で当該偶発症の発生はありませんが、万が一発生した場合は、適切に対処いたします。
*その他の偶発症につきましては、インプラント項をご参照ください。
Q8 親知らず(智歯)を抜いてもらおうと思っていますが、治療前後の生活で気をつけることはありますか?
A8 抜歯前は、体力(免疫力)が落ちないよう規則正しい生活を心掛けていただきます。常用されているお薬がある場合はご申告いただき、服用に関する指示をお守りいただきます。また、抗菌薬の術前服用をお願いする場合があります。お口の健康状態を良好に保つという意味で、毎日の歯磨きを丁寧に行っていただき、特に抜歯当日は念入りに歯磨きを行っていただきます。
術中は、些細なことでもご遠慮なく執刀医にお申し出てください。執刀医にとって患者様のお申し出は安全な抜歯を行う上で有用な情報となります。
術後は、指示通りに抗菌薬を服用していただきます。鎮痛剤は麻酔の効果が持続している間に服用されると麻酔の効果が消える前に効き始め、お痛みを感じることなくお過ごしいただけます。抜歯当日は、激しい運動や長時間の入浴など血流が激しくなる行動はお控えいただきます。お痛みや出血を誘発させる可能性があるためです。お仕事や学業に支障をきたすお痛みや腫れが出ることはないと思われますが、ご心配であればお休みをされることは否定されるものではありません。
Q9 親知らず(智歯)を抜いた後の穴はいつ元に戻りますか?
A9 智歯(親知らず)を抜いた後の穴(抜歯窩)は30日程度で気にならない状態になり、100日程度で完全に回復します。その治癒過程は次の通りです。
術後4分、血餅(かさぶた)形成開始
術後1日、フィブリン膜形成による閉鎖開始
術後7日、肉芽組織化開始
術後10日、表層の上皮化開始
術後10-20日、肉芽組織化完了
術後15-30日、内部の化骨化開始
術後30日、表層の歯肉の完成
術後50日、骨髄形成と骨の形態変化開始
術後100日、骨の形態変化の完了